年収200万円の男、50万円のスーツを買わされる|ガンマ編 第1話

これは、日本型企業からドロップアウトした一人の青年が、ハッタリと話術と偶然を武器に、社会を駆け上がっていく物語である。

彼は人前ではよく喋る。勢いもある。妙に人を惹きつける。

ただし、サングラスを外した瞬間に全部バレる。

本当はかなりの小心者だった。

第1章|50万円のスーツを売ったら、自分が買うことになった

彼は少し前まで、典型的な日本企業で働いていた。

決まった時間に出社して、上司に報告して、会議に出て、周囲の顔色を見て、また報告する。

仕事そのものが嫌いだったわけではない。

ただ、

「なんで全員、同じやり方じゃないとダメなんだ?」

それがどうしても理解できなかった。

結局、会社を辞めた。

現在は日雇い派遣。

イベント設営、携帯販売、倉庫作業、催事スタッフ。呼ばれればどこへでも行く。

そして今日の現場は、都内某所の高級ブランドショップだった。

店内には、自分の家賃数か月分より高い服が普通に並んでいる。

その中でも目を引くのが、50万円のメンズスーツだった。

「……こんなの誰が買うんだよ」

青年は小声でつぶやいた。

商品知識はない。

ブランドの歴史も知らない。

高級生地について説明しろと言われても無理だ。

ところが昼過ぎ、一人の女性客が入ってきた。

見るからに只者ではない。

後に彼が知ることになる、LIEの女性経営者だった。

女性は一着のスーツを見ながら、何気なく青年に尋ねた。

「これ、どう思う?」

終わった。

商品説明なんてできない。

青年は一瞬固まった。

だが、なぜか口だけは動いた。

「……社長なら、絶対これですよ」

「どうして?」

「人って、思ってる以上に見た目で判断されますから」

完全にその場の勢いだった。

しかし話し始めると、彼の調子が上がっていく。

「いい服って、ただの布じゃないんですよ」

「へえ?」

「着た瞬間に姿勢が変わる。姿勢が変われば話し方も変わる。話し方が変われば、相手の反応まで変わる」

自分でも何を言っているのか分からない。

だが女性経営者は面白そうに聞いている。

青年は最後に言い切った。

「人は見かけがすべてです」

数分後。

50万円のスーツが売れた。

「……マジで売れた」

人生初の高額販売だった。

自分には営業の才能があるのかもしれない。

そんな万能感に浸っていた、そのときだった。

「ずいぶん偉そうなこと言うのね」

振り返る。

黒髪に眼鏡。

冷静な目をしたILI女性が立っていた。

先ほどの女性経営者の会社でマネージャーをしている人物だった。

「人は見かけがすべて、なんでしょう?」

「え?」

彼女は青年を上から下まで眺めた。

着古したカーディガン。

安いTシャツ。

日雇い現場で使っているバッグ。

「だったら、あなたも着れば?」

「……何をですか?」

彼女が指さした。

先ほど売れたものと同じ、50万円のスーツ。

青年の顔が固まった。

「いやいやいや。僕、日雇いですよ?」

「知ってる」

「50万円ですよ?」

「知ってる」

「今日の日当、1万円ですよ?」

「それも知ってる」

そしてILI女性は淡々と言った。

「自分が信じてないものを、人に売ったの?」

何も言い返せない。

結局、買うことになった。

店員が満面の笑みで言った。

「今回は特別に、消費税はサービスさせていただきます」

青年の表情が少し明るくなる。

「本当ですか?」

「それから、こちらのサングラスもお付けします」

「え、サングラスまで?」

一瞬だけ得した気分になった。

だが冷静に考えれば、50万円払っている。

その日の夜。

レシートを見ながら青年は計算した。

スーツ代、50万円。

本日の日当、1万円。

差し引き。

マイナス49万円。

「……消費税とサングラスが無料でも、全然得してないじゃん」

彼はようやく現実に気づいた。

第2章|50万円の戦闘服で、人生を盛る

家賃の支払日は近い。

クレジットカードも限度額寸前。

来月の生活費も怪しい。

青年は自宅で頭を抱えていた。

「終わった……」

求人サイトを眺めていると、一件の募集が目に入った。

人材管理ツールを販売するIT企業。

営業職。

未経験可。

成果重視。

そして、一番下に大きく書かれていた。

《入社祝い金50万円》

青年の目が止まった。

「……これだ」

会社の理念でもない。

仕事内容でもない。

50万円だけを見ていた。

履歴書を開く。

職歴欄は弱い。

JTC退職。

その後、日雇い派遣。

しかし、今日だけは一つ実績がある。

《販売初日、高額商品50万円を成約》

嘘ではない。

むしろ事実である。

青年は少しずつ強気になった。

「俺……営業いけるんじゃない?」

そして、買わされた50万円のスーツを取り出した。

せっかくだから髪も変えることにした。

黒髪を金髪へ。

さらに店でもらったサングラスをかける。

鏡を見る。

昨日までの日雇い青年とは、まるで別人だった。

「……これ、年収2000万円くらいに見えない?」

実際の年収は200万円台。

だが彼の中では、ある理屈が成立した。

2000万円プレーヤーに見える。

↓

周囲が2000万円プレーヤーとして扱う。

↓

そのうち本当に2000万円になる。

根拠はない。

しかし本人は本気だった。

その50万円のスーツは、彼にとって借金ではなくなった。

成功者を演じるための戦闘服になった。

そしてその格好のまま、IT企業の面接へ向かった。

面接官は彼を見て、一瞬だけ黙った。

金髪。

サングラス。

50万円のスーツ。

どう見ても営業経験豊富な男である。

ただし、中身は昨日までの日雇い青年だった。

「営業経験は?」

「あります」

「何年ですか?」

「一日です」

「IT業界の経験は?」

「ありません」

「人材管理システムについては?」

「今朝、御社のサイトで勉強しました」

沈黙。

青年は焦った。

焦ると、さらに喋る。

「でも営業って、結局は人間力ですよね?」

面接官の表情が固まった。

結果は当然、不採用。

ビルを出た瞬間。

青年はサングラスを外した。

さっきまでの強気な顔は消えている。

「……やっぱ俺、ダメじゃん」

外見は変わった。

だが、中身はまだ小心者のままだった。

第3章|見た目で入れないなら、結果を持って入れ

帰り道。

雨が降っていた。

青年は50万円のスーツを濡らさないよう、必死に屋根の下を歩いていた。

そこで、あのILI女性と再会した。

「落ちた?」

「なんで分かるんですか」

「顔」

青年は少しムッとした。

「人は見かけがすべてって話だったじゃないですか」

「それ言ったの、あなたでしょ」

「……」

彼女はしばらく黙って歩いた。

そして言った。

「見た目は入口にはなる」

青年が顔を上げる。

「でも、そこに居続けるには別のものが必要」

「何ですか?」

「結果」

また極端なことを言う。

「昨日と言ってること違いません?」

「昨日のあなたには、昨日の言葉が必要だったから」

この人はかなり適当なのではないか。

そう思っていると、ILI女性が一枚の資料を渡してきた。

ある教育会社だった。

学習塾向けに教材や教育サービスを販売している。

「この会社に、さっき面接受けたIT会社の人材管理システムを売ってきたら?」

青年は資料を見る。

「……僕、社員じゃないんですけど」

「知ってる」

「商品知識もないんですけど」

「知ってる」

「というか、それ勝手に売ったらダメじゃないですか?」

「だから正式な商談につなげればいい」

「雑!」

ILI女性は気にしない。

「人材管理も、生徒管理も、結局は人と情報を扱うことでしょ」

「いや、それは理屈が乱暴すぎません?」

「じゃあ家賃どうするの?」

青年は黙った。

数日後。

彼は教育会社の会議室にいた。

服装はもちろん、あの50万円のスーツ。

金髪。

オマケでもらったサングラス。

見た目だけなら一流営業マンである。

中身はかなり怯えている。

「絶対怒られる……」

サングラスの奥で目が泳ぐ。

ところが話し始めると、また別人になった。

相手の反応を見る。

食いついた言葉を拾う。

話題を変える。

例え話を入れる。

「先生を管理するだけじゃなくて、生徒の進捗や面談履歴にも使えません?」

相手が顔を上げる。

青年は畳みかけた。

「講師の配置、生徒の成績、保護者対応。結局、人と情報をどう管理するかですよね」

専門知識は浅い。

だが、相手が何に反応するかだけは妙に分かる。

そのうち本人も忘れていた。

自分が、このシステムを提供している会社の社員ですらないということを。

話は驚くほど順調に進んだ。

「一度、正式な提案をいただけませんか?」

青年は固まった。

「……え?」

「社内でも検討したいです」

その瞬間。

会議室の外を、見覚えのある女性が通った。

ILI女性だった。

青年は嫌な予感がした。

後で知った。

彼女と教育会社の担当者は、以前から知り合いだった。

つまり、完全な飛び込みではなかった。

最低限、話を聞いてもらえるところまで裏で手を回していたのだ。

「それ先に言ってくださいよ!」

「言ったら安心するでしょ」

「安心したらダメなんですか?」

「あなた、安心すると調子に乗るから」

否定できなかった。

第4章|借金のスーツが、実績のスーツになる

数週間後。

商談は正式契約まで進んだ。

青年は再び、あのIT企業へ向かった。

もちろん、50万円のスーツを着て。

前回と同じ金髪。

前回と同じサングラス。

違うのは、手に持っているものだった。

前回は履歴書。

今回は契約書。

LIE女性社長は、それを見て笑った。

「面接では最悪だったけど」

青年の笑顔が引きつる。

「営業としては面白いわね」

採用が決まった。

そして念願の入社祝い金。

50万円。

青年は封筒を両手で抱えた。

「助かった……!」

ようやくスーツ代が返せる。

数日後。

青年は、最初のブランドショップへ戻った。

当然、その50万円のスーツを着ている。

金髪。

サングラス。

最初にこの店へ来たときとは、完全に別人だった。

「今日は支払いに来ました」

青年は得意げにカードを差し出した。

「このスーツのおかげで人生変わりましたよ」

あながち嘘でもなかった。

最初はただ買わされた服だった。

しかし、この服を着て面接を受けた。

この服を着て初営業へ行った。

この服を着て契約を取った。

いつの間にか、ただの借金の象徴ではなくなっていた。

彼が無理やり演じた「成功者」という役に、少しだけ現実の自分が追いつき始めていた。

店員は笑顔で明細を出した。

「こちらが残額になります」

青年は見る。

サングラスを外す。

もう一度見る。

32万8000円。

「……え?」

分割手数料。

利息。

各種サービス料。

プレミアム会員費。

スタイリング相談料。

青年の顔から血の気が引いた。

「ちょっと待ってください」

「はい」

「消費税、無料でしたよね?」

「もちろんです」

「サングラスもオマケでしたよね?」

「もちろんです」

「じゃあなんで、まだ32万8000円あるんですか!?」

店員は笑顔で答えた。

「その他の費用でございます」

青年は頭を抱えた。

「無料って何なんだよ……!」

社会は甘くない。

だが、昨日までの彼とは違った。

仕事は手に入れた。

肩書も手に入れた。

そして、自分には「人に売る」という武器があることも知った。

青年は再びサングラスをかけた。

「……まあいい」

「次は100万売ればいいだけだろ」

当然、根拠はない。

それでも彼は歩き出す。

年収200万円。

借金あり。

営業経験、ほぼゼロ。

それなのに見た目だけは2000万円プレーヤー。

彼はこれから何度も成功し、何度も調子に乗り、何度も失敗する。

そして、そのたびに少しずつ、

「演じていた自分」に本当の自分を近づけていくことになる。

50万円のスーツを着た小心者の成り上がりは、まだ始まったばかりだった。

あとがき…

GPTさんにお願いをしたら、セリフが英語になりましたね…ごめんなさい。見出しの下に直接4枚の画像を入れたので、これは後から編集します。

ここまでお付き合いいただき、
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木村なおき
木村 なおき
ソシオニクス診断専門家 / ENTp(ILE)デザイナー
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2021年よりエニアグラム×ソシオニクスの統合診断を開始し、 300名超のタイプ判定・個人セッションを実施。 強みと弱みを体系化・言語化し、キャリア・起業・対人関係の現場で 使える指針を届けることを信念としている。
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