ロマンススタイル|Eros(エロス)とは

深夜2時、用もないのに相手の家の最寄駅で降りてしまう。改札を出て、5分歩いて、そこで我に返る。何をしに来たのかわからない。

これがErosです。

理屈が追いつく前に、身体が全部決めてしまっている。好きになった理由を聞かれても答えられず、友人が全員反対しても判定は動かず、そしてある朝、きれいさっぱり消えている。

Erosは6色の中で、最も速く、最も強く、最も燃費が悪い色です。

6つのロマンススタイル一覧から飛んできた場合、概要はもう読んでいるはずです。

ここから先は、Erosだけを掘ります。

Erosとは何か

Erosはギリシャ語で、情熱的で身体的な愛を指す言葉です。エロティックの語源にあたります。

この6分類を作ったカナダの社会学者ジョン・アラン・リーは、愛のかたちを色相環にたとえました。Erosはその三原色のひとつ。何かの混合ではない、独立した一色です。

リーによれば、Erosには明確な身体的理想像があります。背格好、声の低さ、指の形、笑うときの間の取り方。本人は「フィーリング」と呼びますが、実態はかなり具体的な審査基準です。基準に合致した瞬間、承認ランプが点く。

判定は速いです。速いだけで、正確とは一言も言っていません。

Erosの恋愛傾向

Erosの動きには、はっきりした型があります。

  • 好きになった理由を言語化できない。「なんとなく」ではなく、本当に言葉が出てこない
  • 顔ではなく、声や手や歩き方に反応している
  • 出会って数分で「ない」を確定させる。そして一生覆らない
  • 周囲の反対がまったく効かない
  • 燃えているあいだは、他の予定を全部後ろに倒せる
  • 冷めるときは、前触れなく一晩で終わる

過去に好きになった相手を並べてみると、たいてい他人には見えない共通点が出てきます。職業も年齢も性格もバラバラなのに、声の帯域だけが全員同じ。そういうことが平気で起きるのがErosです。

Erosは相手を選んでいません。基準に合致した個体を検出しているだけです。愛と言うより、税関です。

そして検出後の動きが、また速い。他の色が「どういう人だろう」と観察している一週間で、Erosはもう3回会っています。序盤戦の勝率だけなら、6色中で堂々の首位です。

問題は、その速度が最後まで持たないことだけです。

こんな言葉が出ます

「あの人の声が好き。話の内容より先に、声が好きだった」

「一緒にいると、理由もなく安心する」

「好きになると、体が反応する」

【男女別】Erosはこう出る

中身は同じです。周囲の反応が違うので、事故の起こり方が変わるだけです。

女性のEros

女性のErosが最初にぶつかるのは、説得です。

条件が良いわけでもなく、評判も良くない。それなのに判定が動かない。母親が正座で止め、友人が3時間かけて資料つきで説明し、それでも承認ランプは点いたままです。

説得が効かないのには理由があります。周囲が話しているのは条件であり、Erosが反応しているのは身体だからです。使っている言語が違うので、議論が成立していません。両者は最初から別の会議をしています。

そして本当に厄介なのは、冷めたあとです。

あれほど泣いて、あれほど周囲を心配させて、あれほど生活を捧げた相手が、ある朝どうでもよくなる。周囲は「あんなに好きだったのに」と言います。言われるたび、女性のErosは自分を薄情な人間だと採点します。

薄情ではありません。燃料が切れただけです。焚き火に人格はありません。

男性のEros

男性のErosは、いちばん雑な単語で自分を説明してしまいます。

「顔がタイプだった」

実際の判定はもっと複雑で、声も距離感も含まれているのですが、それを言語化する語彙がない。結果、周囲には面食いとして処理されます。

本人からすれば人生を左右する規模の引力を感じているのに、外からは軽薄な男の話として消費される。この落差が、男性のErosを黙らせます。黙るので、さらに誤解されます。

冷めたときも同じです。理由を説明しないまま距離を取るので、相手には「急に興味を失った」としか見えない。本人にも理由がわからないのだから、まあ、当然です。

Erosが沼るとき

ここからが本題です。Erosには、決まった沼り方があります。

不安にさせてくる相手ほど、強く燃えるのです。

心理学的な裏側をサクッと

1974年、揺れる吊り橋の上と、安定した橋の上で、それぞれ通行人に女性が声をかけるという実験が行われました。結果、吊り橋のほうが、後日その女性に連絡した人が明らかに多かった。

有名な吊り橋効果です。

背景の考え方は単純です。感情は、身体の反応と、その理由の説明がセットになって初めて成立します。心臓がドキドキする。脳が理由を探す。目の前に人がいる。よし、この人が好きなんだ。以上、審議終了。

ここに致命的な欠陥があります。

心拍を上げるのは好意だけではありません。緊張も、不安も、恐怖も、屈辱も、全部同じように心拍を上げます。そして身体は、そのドキドキの出どころを区別できません。

つまり、不安にさせてくる相手の前で身体は正確に反応し、脳が「これほど強く感じるのだから本物だ」と署名する。署名した以上、あとは履行するだけです。

「悪い人じゃないんだけどね」の正体

連絡の間隔が読めない相手。何を考えているかわからない相手。他に誰かいそうな相手。

Erosは、こういう相手に対して最大出力で点火します。

逆に、穏やかで誠実で返信が早くて何も心配させない相手の前では、身体が沈黙します。誤解する材料が一切供給されないからです。そして例の一文が出ます。

「悪い人じゃないんだけどね」

この一文は、相手への評価ではありません。稼働報告です。エンジンが回りませんでした、という技術的な報告を、なぜか人格の話として口に出しているだけです。

Erosは安心が嫌いなのではありません。安心には、燃やすものが入っていないだけです。

なお、この状態が進行して不安そのものが恋の中心になると、そこはもうErosの管轄ではありません。Mania(マニア)の領域です。

Erosが同じ轍を踏み続ける理由

Erosの恋愛歴を並べると、うまくいかなかった型が律儀に繰り返し選ばれています。

学習能力の問題ではありません。判定装置が身体側にあるからです。

頭は反省しています。次は同じ失敗をしないと決めている。ところが次の相手を前にした瞬間、判定を下すのは頭ではなく身体です。そして身体は、前回の議事録を読みません。読む機能が付いていないのです。

だからErosは、毎回「今度は違う」と本気で思います。そしてその「今度は違う」という確信も、実は身体が出している同じ信号です。

学習で変わるのは、判定が出たあとに何をするかだけ。判定自体は、たぶん一生このままです。

Erosが自分を見失うとき

Erosの本当の危険は、判定を疑えないことです。

「これほど強く感じているのだから、本物に違いない」

この論理には、内側から見て一切の穴がありません。強度がそのまま真実性の証明になっている。だからErosは、どう見ても続かない相手に、生活を全部差し出します。

具体的には、こうなります。

  • 有給を使って会いに行く。相手は当日「ごめん、無理になった」と送ってくる。それでも現地に行く
  • 相手の欠点は全部見えている。見えているのに、判定に反映されない
  • 燃料が切れた瞬間、なぜあれほど必死だったのか自分でも説明できなくなる

2つ目が曲者です。Erosは相手を美化していません。欠点はきちんと見えています。見えていて、効かない。この「わかっていて止まらない」状態が、周囲からは盲目に見えます。

盲目ではありません。視力は正常で、ブレーキが繋がっていないだけです。

そして冷めたあと、Erosは自分を責めます。あれだけ人を振り回して、今は何も感じない。この落差を性格の欠陥だと考えてしまう。

性格ではなく設計です。火力の高い焚き火は、薪の減りも速い。それだけの話です。

Erosの終わり方

Erosの関係には、決まった終わり方が2つあります。

燃料切れによる終わり

前触れなし。喧嘩もなし。ある朝、ただ消えています。

Eros本人がいちばん混乱するのが、この終わり方です。理由を探しても見つからないので、「自分は愛を知らないのではないか」という壮大な結論に行き着くことすらあります。

理由がないのではありません。点火した理由が最初から言語化されていなかったので、消えた理由も言語化できないというだけです。

確保できないことによる終わり

こちらは長引きます。地獄です。

判定が下りたまま、相手が手に入らない状態が続くと、Erosは燃え続けます。しかも不安が燃料なので、手に入らないほど火力が上がる。

こうなると、年単位で消耗します。そして最終的には、燃え尽きるか、相手が完全に消えるかで終わる。自分の意思で降りられることは、まずありません。

Erosと他の色の相性

すれ違いは性格の問題ではなく、愛の言語が違うことによって起きます。

相手の色起きること
Ludus燃えるが、確保できない。Erosが最も消耗する組み合わせ
Storge温度差が埋まらない。Erosは物足りず、Storgeは急かされて疲れる
Pragma感情と現実の押し付け合いになる
Mania爆発的に燃え、短期間で焼き切れる
Agape与えられすぎて、逆に熱が下がる

最悪なのが最初の組み合わせです。

Erosの情熱と、Ludusの距離感。燃えているのに一向に確保できない状態が延々と続きます。そしてこの状態こそが、Maniaという色の成り立ちそのものです。ManiaはErosとLudusの混合として定義されています。

つまり、ErosがLudusと関わると、Manic化する。人格が変わったのではなく、配合が変わっただけです。

最後の組み合わせも見落とされがちです。Agapeの相手は何でも与えてくれます。ところがErosは、確保できた相手に火力を維持できません。尽くされるほど冷める。相手からすれば理不尽きわまりない話ですが、これも仕様です。

Erosの決めゼリフ

Erosは、身体が下した判定に、脳が後から署名しているだけです。

そして署名してしまった以上、契約は履行されます。理由を説明できないまま、最後まで。

ここまで読んで心当たりがあるなら、Erosは主スタイルの候補です。ただし6色は混ざって出るので、純粋な単一スタイルの人はほとんどいません。

そして、ロマンススタイルが説明できるのは「何をするか」までです。「なぜ、それをやめられないのか」は、また別の層の話になります。

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